英語圏のニュースで歌舞伎という言葉が使われている理由

Luke

こんにちは、イギリス生まれ・東京在住、英語教師で作家のLukeです。今週、僕が書いたオノマトペ(擬態語・語音後)についての本 が出版されました。是非チェックしてみて下さい!

英語圏のニュースでは、This is now political kabuki theater. などのフレーズを耳にします。タイトルを見れば分かる通り、この kabuki は日本語の「歌舞伎」からきています。実は、英語圏で kabuki は比喩としても使われているのです。

英語圏の人の多くは本物の歌舞伎を観たことがありませんが、彼らにとってのイメージは、不思議な化粧をした俳優が舞台の上で叫んだりオーバーな動きをしているというものでしょう。化粧こそしていないものの、アメリカの議会では情熱的な演説をしている議員が多くいるので、これらが当てはまります。演説の内容が重要なことや納得出来ることならば良いのですが、そうでない場合よく political kabuki といわれます。つまり、 political kabuki は「芝居がかった政治」といったニュアンスでしょう。
たとえば、昨年アメリカとカナダを結ぶ「キーストンXL」という石油パイプラインを作るかどうかという議論がありました。アメリカの共和党の議員はキーストンXL建設計画を承認する法案を成立させたかったのですが、政治的抵抗が大きすぎたので拒否権が行使されました。それなのに、その後もキーストンXLについて情熱的に演説をした議員たちがいたので、彼らの演説は political kabuki と言われたのです。
政治についてのサイト Politico には、民主党のある議員が述べた以下のことが書かれていました。

Now that President Obama has said he will veto the latest attempt by Republicans to approve the Keystone pipeline, Keystone is now just political Kabuki theater.
オバマ氏は共和党がキーストン・パイプラインの法案を通過させることに対して拒否権を行使すると言いましたので、もうキーストンについての論議はただの歌舞伎です。

また、リーマンショックの時期には、ニュースなどで It’s like kabuki theatre! という表現をよく耳にしました。今回のギリシャの債務危機問題でも、kabuki が使われています。先日CNBCのニュースで、経済学者はギリシャの債務危機について以下のことを述べていました。

This is not a Greek tragedy. It’s Kabuki.
これはギリシャ悲劇ではなく、歌舞伎だ。

みなさんは、この kabuki という英語の使い方に対してどう思いますか?歌舞伎が好きな方も興味のない方もいると思いますが、これは日本の伝統芸能の歌舞伎に対して侮辱的な英語だと思う方もいるでしょう。しかし実際に歌舞伎が好きなネイティブは、この表現を使わなそうですね。

13 件のコメント

  • 私の印象ですが、英語圏の人って日本語をネガティブな意味で使うことが多い気がします。ポジティブなのは「カワイイ」くらい…?
    「ニンジャ」もネット上でアメリカ人が使ってるのを見ていると、「変わった人」という意味で使われていたりします。
    今回の「歌舞伎」もそうですが、
    まぁどうぜ日本語が分からない外国人同士で使う分には
    「勝手に使ってればいいんじゃない?」と思う反面、
    「まともに知りもしない単語を堂々と使うなよ」と、微妙に不愉快という何とも中途半端な感情を抱いてしまいました(笑)

  • そうかなぁ。
    歌舞伎の面白さの一つには見栄に代表されるデフォルメされた演技や衣装、役どころが一目でわかってしまう隈取りなど、「芝居がかった政治」という揶揄の例として語られるだけの見た目の分かりやすさがあってこそじゃないですか。
    シェークスピアとは別次元の洗練といってもいい。
    確かに使われ方としていい使われ方ではないとはいえ、がっかりしてしまうほど貶されてるとも思えませんけど。

  • 歌舞伎そのものをイメージして言っているわけではないようですし、素人が下手にケレン味をきかせて歌舞伎の演技を真似してるのを観たときの違和感というのを表してると思うので、結構いいと思います。ケレン味というのは昔伝統的な歌舞伎を無視したよくない歌舞伎が流行ってたときにそれを批評するときに使われてた言葉ですが慣用句として使われています。今のお年寄りが子供のころは歌舞伎がもっと身近で子供が歌舞伎の大げさなポーズを真似をして遊んだりしていたので、kabuki theaterという表現はそういう下手な芝居を思い起こさせますね。調べればまだ他にも歌舞伎由来の慣用句が見つかると思います。
    英語圏でネガティブな意味で使われてる日本語って言ったら、kamikaze, banzai, hentai, hara-kiriとかだと思います。 それと、futonとかは間違った意味で使われてますよね。
    今度よければLukeさんに英語になった日本語をいくつかまとめて紹介する記事を書いて貰えたら嬉しいです。

  • 日本語で言うところの「大見得を切る」に近い用法みたいですね。
    元々歌舞伎用語ですしあんまり違和感ないかも。

  • 当時、アメリカの女性議員が歌舞伎を使っていたのを聞きました。一瞬、字幕に目をやりました。
    日本の歌舞伎はそのように使うものではないと思いました。
    しかし、日本人も沢山言葉の中に英語を使います。
    特に司会を務めるアナウンサーやニュースキャスターがです。本欄なら日本語で伝えるべき職業の方がなぜ単語のみ英語に置き換えるか不思議です。と言うわけで五分五分です。
    英語ではアナウンサーやニュースキャスターは外来語ですか?
    anchorと呼びますか?

  • Hello Luke, thank you so much for your useful columns. I studied abroad and your columns helped me a lot. I still check your blog after coming back to Japan.
    When I studied about Junichiro Koizumi in a foreign country, an English artile said that Koizumi greatly influenced ”kabuki democracy”, and he won popularity in Japan. ”Kabuki” meant ”good performance” in that sense, it’s not that negative though Kabuki democracy was criticised in the article.

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    記事を書いたLukeについて

    英語の教師と作家。父はイギリス人、母はアメリカ人。イギリス生まれ、13歳でアメリカへ。卒業後はワシントンDCで記者。現在東京に在住。著書に『この英語、どう違う?』(KADOKAWA)、『とりあえずは英語でなんと言う?』 (大和書房)、など。NHK基礎英語1と婦人公論の連載。